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和歌山みかん農家の儲かる秘訣。アマン東京が認めた谷井農園のジュース

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 http://www.taniifarm.jp/

 

特徴のある経営をする農園のポータルサイト「農園百貨」編集部です。

 

今回は、日本一甘いみかん作りに取組、高糖度のみかんの栽培に成功した「谷井農園」をご紹介します。

 

 

 

日本一甘いみかんとは?

谷井農園は、和歌山県有田郡湯浅町に立地し、7ヘクタールの農地に社員13人が働きます。三宝柑、温州みかん、ブラッドオレンジ、バレンシアオレンジ、伊予柑など10種類以上の柑橘類を栽培しています。

 
 
 
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 一般農家では生みかんの取引金額は1キロ200円~250円前後ですが、谷井農園では1キロ780円と一般価格の3倍以上の高値で取引されています。

一度口にすれば誰もが認める品質で、顧客には著名人や有名俳優なども名を連ねます。

 

一流ホテルも認めたみかんジュース

谷井農園はみかんだけでなく柑橘類などの生搾りジュースも製造し、ネットで販売するほか、パークハイアット東京、ザ・ペニンシュラ、フォーシーズンズ丸の内、セントレジスホテル大阪に採用されました。

さらにアマン東京では同ホテル名と谷井農園のダブルブランドによるオリジナルデザインの瓶入りジュースが提供されています。

アマン東京のオリジナルジュースは、マツコの知らない世界でも、紹介されています。

 
 
 
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仕掛け人 代表の谷井康人氏名

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 谷井 康人 (たにい・やすひと)

1966年、和歌山県生まれ。米国・カリフォルニア大学アーバイン校でコンピュータサイエンスを学び始めて間もなく、父親が倒れて緊急帰国。19歳で3代目としてみかん農家を継ぐ。自家製ジュースはアマン東京、ザ・ペニンシュラ東京、セントレジスホテル大阪、パークハイアット東京、フォーシーズンズホテル丸の内東京、同ホテル京都などに採用されている。

 現在代表をつとめる谷井氏は、カリフォルニア大学でコンピュータサイエンスを学びはじめてすぐの19歳の時に当時45歳だった父親が肝臓がんで余命わずかと知らされ、急遽谷井農園をつぐことになった経歴をもちます。その後、父親は奇跡的に回復し、現在は健全です。

 

化学肥料や農薬なしで、美味しいみかんを製造

谷井農園では化学肥料や農薬は使いません。谷井氏は土台である「土」に着目。動物の糞や魚粉末、落葉、米ぬかなどの有機物に、酵母菌をいれて発酵させたものを使用します。

みかんは、一般的に年に2回春と秋に肥料を与えますが、谷井農園は春1回だけに。土や木がもつ力を最大限に引き出せるように工夫をしています。

甘いみかんにするコツはしっかりと陽にあてて完熟させること。そのため、3月から1ヶ月間は剪定(木の枝を切ることで、形を整えたり、風通しを良くしたりすること)をします。剪定はすべての枝が太陽の方向にむくようにして、まっすぐ一方向に伸びるようしっかり行います。

糖度を増すには、マルチング(ビニールなどで根を多い、木に与える水分量を減らす)をすることが一般的です。当初はマルチングに取り組んでいましたが「甘いけど、おいしいと感じられない」という違和感を抱いていました。これに対して谷井氏は、10年あまりの試行錯誤の結果、糖度15~16度という納得のいく甘さのみかんを、マルチングを使用せず、自然の力にまかせてつくることができました。

 

 

農協・市場を介さず、個人を対象とした販売

谷井氏が農園を引き継いだ1985年当時は、有田地域で生産されたみかんは、農協が買い上げ、その姿形や大きさから等級と階級に選別されていました。味よりも見た目がキレイなみかんを良しとされていました。

そのため農協の規格に合致した見た目がキレイなみかん作りに農家は注力していました。

みかんの花にはハチが集まり、蜜を吸いにきた時に小さく傷をつけます。これは味が美味しいみかんの証ですが、市場では見た目が悪いという理由で売れません。

そんな状況で谷井氏は、見た目よりも味を重視し、市場には出さずに、直接の個人販売へと舵をきりました。多少形が悪くても美味しいみかんを個人顧客に提供していきました。

個人販売で力をいれたのは、社内の受注システムです。パソコンに慣れないスタッフでも簡単に入力できるシステムを開発。これで受注作業にかかる時間が10分の1になっています。

個人販売への変更を機にはじめた通信販売も、顧客が次第に増え、谷井農園の通販の利用者は現在1万4,000人を超えています。

 

7割の売れないみかんを、売れる生搾りジュースに

次に谷井氏が着手したのは、ジュースです。個人販売でも、生食用として販売できる美味しいみかんは全体の3割に過ぎません。のこりの7割は加工用として安価で売るか捨てていました。

ここで、売れないみかんをジュースとして売ることに決めました。果実だと、みかんの市場価格は1キロ100円前後、高くても10倍の1000円程度。それがジュースの原料で売ると1キロ10円が相場とさらに安価になってしまいます。

しかし、自社でジュースに加工してしまえば、2400円で販売することが可能で、240倍の価格になります。

谷井氏は研究のために市販のフルーツジュースを数多く試飲。どのジュースも味が似ていることに気づきました。理由はどこも同じ大手メーカーの機会をつかって同じ熱殺菌方法で処理していること。

アメリカ留学中に飲んだジュースが美味しかったことを思い出して、2000年にアメリカ製のジュース搾り機を導入。特許の関係で販売されないため、年間150万のリース料を支払っての挑戦でした。

アメリカの機械で絞ったみかんのジュースは、なめらかな果汁と果肉感がほどよい感覚で、これは間違いなくいけると、谷井氏は実感しました。

 

五つ星ホテルへの導入でブランド化

最初は東京のラグジュアリーホテルにみかんジュースの提案をしますが、外資系のためみかんは扱わないと断られます。しかし、諦めずに1ヶ月でピンクグレープジュースを開発し、成約へとつなげました。

これがきっかけで、ホテルへの要望に答える形で、ブラッドオレンジ、バレンシアオレンジ、不知火、伊予柑など10種類以上のジュースをつくるように。

 
 
 
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 谷井農園は5つ星のラグジュアリーホテルと取引していますが、同じみかんでもホテルごとにすべて味が違います。例えば、東南アジアの利用者が多いホテルでは甘味を強くし、アマン東京ではレストランの朝食とルームサービスでも微妙に変えています。

 

こうした地道な取組で高い評価を得た同社は、一流ホテルとの取引を増やしていきます。実はホテル向けビジネスでは、利益の出ていないものもあります。谷井農園では一度に200リットルのジュースをつくる製法の機械になっていますが、1つのホテルからの発注量はごく少量です。個別に味も変えていることから、これでは大きな赤字になってしまいます。

 

ホテル用に生産ラインを組み直して、一度につくる量は20リットルにまで減らせました。これなら注文をうけつけることができて、新鮮なジュースをつくることができます。ラグジュアリーホテルに導入で得られるものは、ブランディングです。農地7ヘクタールの小さな農園なので、生産量は限られています。販売量を伸ばす戦略はとれず、ブランディングで単価をあげる戦略になります。

 

取引が増えて、対応が追いつかなくなったときに、心苦しいなかで顧客へ25%~30%の値上げのお願いをしたときもほとんどの顧客が理解を示されました。

このようにして、谷井農園は、ブランディングに成功して収益率の高いみかん農園へと成長していきました。

 

 

参考書籍:

奇跡のみかん農園 けっして妥協しない零細農家のすごい仕事の話

谷井康人(著)