直売の特大梨。300の改善をネット公開した阿部梨園<農業経営の特徴>
農園百貨編集部です。
当メディアでは、「特徴のある農業経営をする農家」をご紹介しています。
今回は、畑に入らず農業カイゼンを実現した栃木県宇都宮市の「阿部梨園」をご紹介します。
仕掛け人「マネージャーの佐川友彦氏」
阿部梨園が農業カイゼンを実現した仕掛け人をご紹介します。敏腕マネージャーの佐川友彦氏です。
※出典:日本経済新聞
佐川 友彦(さがわ ともひこ)
1984年群馬県生まれ。
09年東大大学院農学生命科学研究科修士課程修了。
デュポンを経て、14年から阿部梨園に勤務。
個人で農業経営などのコンサルティングも行う。
佐川氏は、メーカー勤務の経験のほか独学の知識も活かし、農作業の効率化や収益性の向上に貢献されています。
佐川氏は東大農学部・同大大学院に進み、バイオエネルギーを研究。卒業後は外資系メーカー「デュポン」の研究開発職として勤務しました。
しかし次第に「もっと人と関わる仕事がしたい」と感じるようになり、約4年で退社されました。
再就職先を探す中では、さらに「地域に根ざし、経営の全体を見渡す仕事」がしたいという軸で、阿部梨園の求人に出合いました。
経営面を手助けする「農家の右腕」という働き方のやりがいと、若き三代目・阿部英生代表の熱意と人柄にひかれ、4ヶ月のインターンシップを経て2015年1月に阿部梨園の一員に。
それ以来、生産は代表の阿部氏、それ以外(経営企画・広報・事務・サイト制作など)の面は佐川氏が担当されています。農家では珍しい役割分担制で、二人三脚での運営です。
特大で美味しい梨
佐川氏が入社したときの阿部梨園は、経営効率化のための課題は山積みでした。しかし、佐川氏の目には阿部梨園の「梨(ナシ)」が美味しく、「カイゼンの余地はある」と見えていました。
※出典:阿部梨園オンラインショップ
阿部梨園オンラインショップ | 最高級梨の生産・直売@栃木県宇都宮市
産地直売でネットで購入可能です。梨はとても美味しく、割とリーズナブルな価格です。デパートなどで買うよりも、ずっと安い価格です。
阿部梨園の梨の圧倒的な魅力は、味です。梨は大きいほど甘くおいしい性質があります。
阿部梨園では、スーパーなどでは見かけないほどの大玉梨を生産しています。この大きさが一番の特徴で、インパクトがあります。
地元のファンはついており、高級品としてブランド化していました。
阿部氏は「これなら売れる」と思い、経営のカイゼンに取り組んでいきました。
ハタケに出ないカイゼン
佐川氏は4年間で阿部梨園の経営を隅々まで見直しました。この間の業務改善数は約500件にのぼります。
例えば作業を振り返り、毎週の会議で継続する取組や改善点、今後の計画を従業員間で共有する仕組みを導入しました。
スタッフは100位上の項目について5段階で人事評価するようにして、さらにレポートの課題を与えるなどしてスキル・知識を向上させる仕組みを整えていきました。
結果的に従業員の作業レベルは向上し、慢性的な人材不足は解消しつつあります。
これ以前は阿部代表と同様のノウハウを持ったスタッフの不足で作業効率が悪かったのですが、能力向上によって、2019年は生産面積が2割ほど見える計画をしています。
さらに、販売データを分析して価格を調整し、収益性も向上させています。
収穫した果物の99%は直売で売り切ることをつらぬいています。BtoBも少しありますが、BtoCを中心に販売。元々は大半を軒先で売っていました。地元のお客様が、地方の親戚・知人への贈答用に使うことが多いようです。
他には、百貨店で「阿部梨園の梨」ブランドで売ってもらったり、郵便局で販売していただき、お客様へ直送もしています。直売でネットで買えるオンラインショップでの運営もしています。
これらの取組は、メーカーでの勤務の経験も生きていると佐川氏は語っています。
農業の経験はなくても導き出せる改善点はおおく、畑に入らず農家に関わる働き方を増やす、社外への取組も行っています。
ノウハウは全てネット公開
阿部氏は日々の業務で気づいた課題とアイディアをエクセルシートに書き留めていきました。
そうやって書き留めた内容を、2018年5月には自らの取組を公開するウェブサイト「阿部梨園の知恵袋」を公開しました。
いくつか内容をご紹介
・100の小さい経営カイゼンを行った記録を全てリストで公開
※出典:阿部梨園の知恵袋
・代表の阿部氏の頭にしかなかった振り返りのノウハウを、スタッフミーティングでみんなで周期的に実施できるためのシート。
ウェブサイトの制作費はクラウドファンディングで募りました。
目標金額の100万円に対して、あつまった金額は446万円。325人もの支援者の共感を得ることができました。
このクラウドファンディングの支援によって無料で公開することができています。
知恵袋では、実際に使っていたツールまで落とし込んでノウハウが紹介されているので、農業経営を志す方は必見のウェブサイトとなっています。詳しくは、阿部梨園の知恵袋で。